髪を切る
髪を切ろうと思ったのは金曜夜だった。
それならば、ちょっと離れた商店街の、酒屋の2階にある美容室に行こうと。
美容師さんにハズレがなく、窓からの景色も程よく、欧州のテクノミュージックなど流れていて居心地が良い。
目を瞑って髪を切ってもらっていると、粉雪の降り積もるような音がした。2月あたりの真夜中に聞いたことのある音。静かな、なんだか幸福な気分のまま我にかえると、その音は髪の毛がケープに落ちる音だった。鋏の音はほとんど聞こえなかった。
あんなに優しい散髪は新鮮だった。
予約のために電話をかけると「この番号は現在使われておりません」などと仰る。
キャリアを換えても、固定電話から掛けても同じ。
あの癒しに再会は叶わぬのか、と思ったら、もうどんな店でもよくなってしまった。
「振られてやけくそ」な気持ちに似ている。
徒歩圏にある店を探して行ってきた。髪型は相談する体で美容師さんに大筋で任せた。鋏の音だのBGMだの違いを感じた。完璧に振られメンタルだ。仕上がった髪型に不満は無いが、鏡を見るたび経緯をまるごと思い出してしまう。
そして今更。かの美容室が名前だけ変えて、場所も経営者も変わらず営業しているのを知った。「あの子は…ずっと待っていたんだよ」とかいう感じだ。
嬉しいが、ちょっとがっくりしている。
ハロウィンのおもいで
ピンポーン
「どなたですか」
『あの…ハロウィンですけど…』
「はい?」
『ハロウィンです』
『……』
「…………」
---終了---
なじめねえ。